木邑真理子 本研究科物理学・宇宙物理学専攻修士課程学生、磯貝桂介 同修士課程学生、加藤太一 同助教、上田佳宏 同准教授、野上大作 同准教授らの研究グループは、2015年6月中旬から7月初旬にかけて急激な増光を示したブラックホール連星はくちょう座V404星において、今までX線でしか観測できないと思われていたブラックホール近傍からの放射エネルギーの振動現象を可視光で初めて捉え、このような振動現象が今まで観測されていたよりも10分の1以下の低い光度で起こっていたことを明らかにしました。今回の発見は、ブラックホールの「またたき」を目で見ることができることを意味します。
本研究成果は、英国科学誌「Nature」誌の電子版で1月6日18時(ロンドン時間)に公開されました。
研究者からのコメント
今回の研究は今まで考えられてきたX線連星における周期的な光度変動を説明する理論に疑問を投げかけるものでもあったため、ブラックホールとその周りの降着円盤に関する理論研究家の方々とも議論を深め、今後のブラックホール天文学の発展を導きたいと考えています。
また、今後数年以内に本格稼働予定の理学研究科附属天文台の3.8m望遠鏡を用いた可視観測や、2016年2月に打ち上げ予定のAstro-Hを用いたX線観測も視野に入れ、ブラックホール周囲の超強力重力下での極限物理の解明に挑みたいと思います。
概要
X線連星は、ブラックホールまたは中性子星(主星と呼ぶ)と、普通の星(主系列星: 伴星と呼ぶ)がお互いの周りを回っている連星系です。X線連星の中でも、不定期にアウトバースト(急激な増光現象)を起こす天体をX線新星といいます。そのうちの一つである「はくちょう座V404星」は、正確に距離がわかっているブラックホールの中では地球に最も近いブラックホールを主星に持つ天体であり、過去の観測から、アウトバースト中にX線で激しい光度変動を示すことが知られていました。この天体はこれまでおよそ十数年おきに一度という割合でアウトバーストを起こしており、以前のアウトバーストが1989年であったため、2000年頃に再び増光するのではないかと期待が高まっていましたが、その時期にアウトバーストの兆候は見られませんでした。ところが、2015年6月中旬から7月初旬にかけて、この天体は26年ぶりにアウトバーストを起こし、世界中の観測天文学者の関心を集めることとなりました。
アウトバーストでは、以前から本学を中心に活動してきた国際変光星観測ネットワークVSNET team、およびTAOS team(台湾の観測チーム、The Taiwan American Occultation Survey)、IKI(ロシア宇宙科学研究所、Space Research Institute of the Russian Academy of Sciences)を通して世界中で行われた大規模な国際協力可視測光観測によって、ブラックホールX線新星のアウトバーストにおいては過去最大の可視測光データを得ました。
解析の結果、ブラックホール近傍から出る光の変動を可視光で初めて捉えることに成功しました。また、このような光度変動が、今まで他のX線連星で同じ種類の変動が観測されていたときの光度よりも10分の1以下の、非常に光度が低い時期にも起こっていたことも明らかになりました。
詳しい研究内容について
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